【1】仮想通貨の基礎知識、利益確定と含み益の違い
1-1.「利益の確定」得た利益に対して課税されるのです
仮想通貨の取引によって得た利益を確定申告する場合、まずその利益が「確定」されはじめて課税の対象となることがポイントとなります。たとえば10万円で購入した仮想通貨が、半年後10倍に値上がりをしました。この時の利益を計算してみると、
- 100万円-10万円=90万円
となりますね。この場合、購入された時の価格10万円が取得価額(取得原価)であり、確定申告においては「経費」になります。では利益を確定させるとはどういうことでしょう、事例として一番わかりやすいのは「売却」、取引所で売却されることによって利益は確定するのです。
1-2.持っているだけでは「含み益」、税金はかかりません
仮想通貨は値が上がろうが下がろうが、ただ持っているだけでは税金はかかりません。売却などを行った結果、得た利益に対して課税されるのです。さきほどの例であれば、売却によって得た90万円に対して税金がかかるわけです。
【2】仮想通貨が利益確定される3つの例
2-1.売却・買い物・交換
仮想通貨は利益が確定された時はじめて課税の対象となるのですが、前述の通り利益確定は売却した時だけではありません、ここでは、国税庁発表「仮想通貨に関する所得の計算方法について」より
- 仮想通貨の売却
- 仮想通貨での買い物
- 仮想通貨と仮想通貨の交換
以上3つの例題を引用し解説してみます。
では仮想通貨の売却から始めてみます。
2-2.仮想通貨の売却
売却につきましては冒頭でもお話しした通りです、さっそく例題を解いてみましょう。
(例)
- 3月9日、2,000,000円(支払手数料を含む)で4ビットコインを購入した。
- 5月20日、0.2ビットコイン(支払手数料を含む)を110,000円で売却した。
売却価額から取得価額を差し引いた差額が利益(所得)金額です、したがって
- 売却価格は11万円ですね
- 1ビットコインの取得価額は:2百万円÷4BTC=50万円です
- 支払いビットコインは:50万円×0.2=10万円
- よって利益(所得)金額は:11万円-10万円=1万円
となります。
いかがですか、取得した2百万円に対してではなく利益(所得)である1万円が課税対象となります。
2-3.仮想通貨での買い物合
メガネスーパー・コジマ・ビックカメラ、などビットコインで買い物ができるお店も多く見かけるようになりました。ただこの時支払ったビットコインが「含み益」を含んだものであれば「利益の確定」となるため税金がかります。
例えば10万円で購入した仮想通貨が2倍に値上がりしたとします。この仮想通貨で20万円の買物をすれば、
- 20万円-10万円(取得原価)=利益10万円
この10万円に対し課税されるわけです、では例題を見てみましょう。国税庁「仮想通貨に関する所得の計算方法について」から再び引用させてもらいます。
(例)
- 3月9日、2,000,000円(支払手数料を含む)で4ビットコインを購入した。
- 9月28日、155,000円の商品購入に0.3ビットコイン(支払手数料を含む)を支払った。
使用時点における商品価値と仮想通貨の取得価額の差額が利益(所得)金額となります。したがって、
- 商品価値は15万5千円ですね
- 1ビットコインの取得価額は:2百万円÷4BTC=50万円です
- 支払いビットコインは:50万円×0.3=15万円
- よって利益(所得)金額は:15万5千円-15万円=5千円
となります。
2-4.仮想通貨と仮想通貨の交換
次に仮想通貨取引ではポピュラーな取引である、仮想通貨と仮想通貨の交換について。仮想通貨で別の仮想通貨を購入した時に確定した利益について考えてみます。
(例)
- 3月9日、2,000,000円(支払手数料を含む)で4ビットコインを購入した。
- 11月2日、他の仮想通貨を購入(決済時点における他の仮想通貨の時価600,000円)の決済に1ビットコイン(支払手数料を含む)を使用した。
使用時点における他の仮想通貨の時価(取得価格)と仮想通貨の取得価格の差額が利益(所得)金額となります。したがって、
- 他の仮想通貨の購入価格は60万円ですね
- 1ビットコインの取得価格は:2百万円÷4BTC=50万円です
- 支払いビットコインは:50万円×1=50万円
- よって利益(所得)金額は:60万円-50万円=10万円
となります。
いかがでしょう、とりあえず3つの例題で考えてみましたが、利益計算そのものは決して難しいものではありません。しかし・・・、
【3】ポイントは取得価額、これが面倒です
3-1.仮想通貨による所得は雑所得に区分されます
国税庁はタックスアンサーにて、ビットコインを使用することによって生じた利益は所得税の課税対象になり、生じる損益は原則として「雑所得」に区分されると回答しています。
この「ビットコインを使用することによって生じた利益」とは前章で解説した確定利益のことですね。ちなみに雑所得の計算方法は
- 雑所得=総収入金額-必要経費
となります。
3-2.必要経費は「取得価額」がその筆頭となります
計算そのものはとてもシンプルなのですが、いざ仮想通貨で得た所得を実際に計算してみると実にややっこしいのです。
雑所得は総収入金額から必要経費を差っ引くわけですが、仮想通貨の場合、必要経費は「取得価額」がその筆頭となります。物販における売上原価のようなものですね、これがくせ者なのです。
たとえば総収入金額とは1年間における仮想通貨の売却などによって得た総額です。しかし必要経費となる仮想通貨の取得価額とは、一年間における仮想通貨の購入金額の合計ではありません。
例題でもおわかりの通り、あくまでも総収入金額に該当する購入金額をもって算出するのです。
例題で考えると、
- 1年間で購入したビットコインは、一度の取引で購入した5BTC、合計250万円だけでした。
- その内2.5BTCを300万円で売却しました。
こんな取引だけだったらカンタンです。
この総収入金額300万円に対する取得価額は
- 250万円÷5BTC=50万円
- 50万円×2.5BTC=125万円
取得価額は125万円です。
したがって雑所得を求めるのなら、
- 300万円―125万円=175万円
この175万円から、さらにかかった経費、セミナー受講料やインターネット回線料などを差し引けば所得は算出できます。
しかし、実際の取引はこんなに単純なものではありません。たとえばビットコインを例にとっても、取り引きごとに1BTCのレートは違うからです。
購入の都度違う価格で手に入れたビットコインです、売上に該当する取得価額をいったいどのようにして求めればいいのでしょうか。この問題に対し国税庁はこのように回答をしています。
同一の仮想通貨を2回以上にわたって取得した場合の当該仮想通貨の取得価額の算定方法としては、移動平均法を用いるのが相当です(ただし、継続して適用することを要件に、総平均法を用いても差し支えありません)
引用元: 国税庁「仮想通貨に関する所得の計算方法について」仮想通貨の取得価額
【4】当該仮想通貨の取得価額の算定、移動平均法と総平均法
では例題として引用した国税庁「仮想通貨に関する所得の計算方法について」より、再び事例を引用し考えてみましょう。
(1年間の仮想通貨の取引例)
- 3月9日、2,000,000円(支払手数料を含む)で4ビットコインを購入した。
- 5月20日、0.2ビットコイン(支払手数料を含む)を110,000円で売却した。
- 9月28日、155,000円の商品購入に0.3ビットコイン(支払手数料を含む)を支払った。
- 11月2日、他の仮想通貨を購入(決済時点における他の仮想通貨の時価600,000円)の決済に1ビットコイン(支払手数料を含む)を使用した。
- 11月30日、1,600,000円(支払手数料を含む)で2ビットコインを購入した。
4-1.移動平均法とは
さきに解答を言うと移動平均法による、1ビットコインの取得価額は
- 3月9日時点で50万円
- 11月30日時点で633,334円
となります。
移動平均法とは仮想通貨の購入や売却など取引の都度、保有している仮想通貨の購入価額の累計と保有している仮想通貨の数より、取得価額を算出するやり方です。
では実際に計算してみましょう。
200万円÷4BTC=50万円
ですね。
そして3月10日から11月2日までの間に
- 5月20日:0.2BTC
- 9月28日:0.3BTC
- 11月2日:1BTC
以上合計1.5BTCが売却、または使用されています。
したがって、11月30日購入直前において保有しているビットコインの帳簿価格は
50万円×(4BTC-1.5BTC)=125万円
となります。
すると11月30日、2BTC購入直後の1ビットコインの取得価額は
(125万円+160万円)÷(2.5BTC+2BTC)
=633,334円
となるわけです。
わかりますか。
しかし、なんですかこれ。取り引き毎にこのような計算が必要となるのでしょうか。表計算ソフトでも使わない限りムリ、じつに面倒ですね。
4-2.総平均法とは
これに対し総平均法とは1年間で取得した仮想通貨の購入価額の累計と、1年間で取得した仮想通貨の数より求めます。
さっそく計算してみましょう
2百万円+160万円=360万円
ですね。
そして、1年間に取得したビットコインの数は
4BTC+2BTC=6BTC
したがって
360万円÷6BTC=60万円
となります。
【5】何かいい方法はないでしょうか
5-1.こんな面倒な計算に時間をかけられません
移動平均法と総平均法、購入履歴からそのデーターをCVSファイルにはきだせば数字は整理できそうな気もします。しかし、どんなものでしょう。誰が行っても答えは同じなら、こんな面倒な計算に時間をかけることはどうかと思えます。何かいい方法はないでしょうか。
ついでですが、雑所得として区分されている以上、損失の繰り越しや損益通算ができません。仮想通貨の取引によって得た利益を「事業所得」として確定申告することは、かなりハードルが高いものと思ったほうがいいようです。
5-2.おかしいなと思ったら
ここでは仮想通貨取引の確定申告としてその基礎知識の一部を取り上げてみました。僕なりに調べたことをまとめてみましたが、内容は必ずしも万全なものではありません。少しでもおかしいなと思うことがあれば、法令や公的機関の情報を参照してください。
わからないことは税務署に聞くことが一番です。では最後にこれから申告をされる方にアドバイスを一つさせていただきます。
【6】もし税務調査が入ったら対応できますか
6-1.仮想通貨の税務にくわしい税理士はまだまだ少ない
仮想通貨の利益に対する確定申告が本格化したのは平成30年(平成29年度分)の確定申告が初めてのことではないでしょうか。
日本税理士連合会さんのホームページによると平成30年9月末現在の税理士登録者数は77,701名となっていますが、すべての税理士さんが仮想通貨の税務に精通しているとは思えません。取引件数が多いと税計算も相当やっかいで面倒になることは察しがつきます。
6-2.早めに引き受けていただける先生を探しておくべきです
どの税理士さんも確定申告の時期が来ればクライアントの申告を間に合わせなければと必死です。そんな時、3月15日の申告期限ギリギリになって今まで処理したことのない仮想通貨の申告を依頼されたらどうでしょうか。
もしあなたがご自身で申告されるのなら別ですが、これから税理士さんを探しましょうと思われているのなら、早めに引き受けていただける先生を今からでも探しておくことがベストかもしれません。